関東地方のデジタル放送は今、東京タワーから東京スカイツリーに移転するための「確認テスト」を行っている。当初は今年1月に移転を完了する予定だったが、予想外に難航し、「5月中の移転」へと延期された。なぜ、こんなことになってしまったのか。
■完全移行はいつ?
「これじゃ、何のための“新電波塔”なのか!」と憤懣やる方ないのは、東京都練馬区でマンション管理組合の役員をするU氏。U氏のマンションは共同アンテナだが、「確認テスト」の結果、全戸に何らかの受信障害があることがわかったのだ。このまま完全移行になると、U氏のマンション住人は“地デジ難民”になってしまう。あわてて工事をしてもらったが、一度では済まず、次回待ちの状態という。
昨年5月に開業した東京スカイツリーは、首都の新しい観光スポットとして1周年を迎え、人気も高い。しかし、本来の目的はあくまで「電波の送信塔」。一昨年に「完全地デジ化」を終え、東京タワーから完全移転する(放送大学を除く)ことは、一連の地デジ化の集大成になるはずだった。
そもそも、電波移行は今年1月には完了することになっていた。ところが、前述の「確認テスト」を始めたところ、3月までに約16万件の電話相談が寄せられ、そのうち工事が必要な件数は約7万件もあることがわかった。
さらに4月には、対策が必要な件数の累計が10万件を超え、予定は5月に延期。「もっと延びて9月との予測もある」(CATV関係者)。万が一、5月中に移行できない場合、7月の参議院選挙での政見放送や、夏休み期間に入ることを考慮せざるをえない。現状のままではとても完全移行はできない、というわけだ。現時点で、完全移転の時期の予測は立っていない。
■なぜ映らない
難視聴の一番の理由は、地デジ放送がUHF帯を使う電波のため、「直進性」が強い点だ。東京23区内でも、スカイツリーから同一直線上で周囲に高層ビルがある周辺では受信状態が悪くなってしまう。アナログ波は、多少電波が弱くても“それなりに映る”が、デジタル波は一定レベル以下になると“真っ暗”になることが多い。
NHKと在京民放キー局が立ち上げた「東京スカイツリー移行推進センター」では、テスト時に障害のある世帯に電話連絡(0570・01・5150)を呼びかけ、必要な世帯には無料で工事を行っている。
だが、申込者が殺到して数週間待たされるうえ、「立地条件によっては、アンテナの方向やブースター(増幅器)の調整では解決しない」(工事担当者)。問題は意外に根が深い。前出のU氏が「(受信が)良くなるはずだったのに、かえって悪化して面倒ばかりかかる」と語るのも無理はない。場合によっては、関連業者や自治体などに対して、スカイツリーに代わるCATVへの加入補償などを求める動きが出てくるかもしれない。
関東地方のテレビ放送は50年以上、東京タワーに頼ってきた。電波も街づくりと密接に関連しており、その歴史を一夜で覆そうとしても簡単にはいかないようだ。5月半ばからは長時間テストの「移転リハーサル」が始まっており、これまで気づかなかった世帯からも悲鳴が上がることが予想される。完全移転は「いつやるの? 今でしょ!」とはいかない厄介な問題なのだ。 (木庭貴和)